番外

 の山

2007/9/8  道行山(みちゆきやま) 標高1,298m 魚沼市
最初に言っておく。
今回の山行きは、大失敗だった。
危うく命を落とさないまでも、遭難騒ぎをおこしてしまうところだった。
それもこれも、前もってよく調べておかないこと、本を読み込んでおかないこと、現地での確認を怠ったこと、山の天候を甘くみていたこと、等々、我々の至らないことばかりの積み重ねで起きてしまったことである。
これが標高の高い危険な山や、もっと寒い季節でなくて本当によかった。
とにかく、今回は状況写真を羅列して顛末を紹介します。どうぞ、皆さん、反面教師にしてください。ってか、ここまでバカな人はそういないとは思いますので、んがお工房の大ばかやろう、と笑ってやってください。
(ただの状況写真のみですが、写真数が多いので、一つ一つの写真を小さくしています)
連休の前日ということで、今までのリハビリ登山より少しハードな山行きを計画。
奥只見シルバーラインを通って銀山平へ。そこから石抱橋を渡って、銀の道の入り口に到着。
今回の計画は、道行新道で道行山に登り、そこから明神尾根で明神峠に出て、銀の道を下ってもとに戻るというコース。合計で6時間半の歩行、と後で調べた(←こらこら)山地図による時間。
石抱橋を渡るとすぐ左側に監視小屋とトイレがある。そのそばに5,6台駐車できる。
9:30 仕度を整えて出発。前日は台風で大雨だっただろうので、スパッツをつける。
石抱橋のたもとには一合目石抱の標識と、開高健の「河は眠らない」の碑がある。

川を左に見ながらススキぼうぼうの道を進む。
とてもいい天気で、さえぎる木がないので直射日光が痛い。
とはいえ、美しい水の北ノ又川はススキで見えない。
9:35 そのぼうぼうのススキの中に二合目の文字を発見。そのまま通り過ぎてしまう。
が、橋で北ノ又川を渡る場所に出て、これは間違ったかも、と本で確認。しっかり間違っていたので、二合目の標識まで戻る。
9:38 二合目 榛ノ木(読めなかったので調べたら、ハシバミの木らしい)から草を掻き分けて踏み跡しかない銀の道に突入。

左手にきれいな北ノ又川が見えるが、道は本当に細く、ずるっと落ちると川にハマる。
9:51 いきなりそんな細い道からぽん、と左写真のような林道に出る。なんだか冗談を言われたような気分になる。
この道は石抱橋から枝折峠に向かって国道352号を走るとややして左側にある林道だ。ただし、ゲートが閉まっているので、自動車では入れない。
9:51 そのいきなり出た林道からすぐ反対側に草だの枯れ木だのに埋もれて三合目の標識を発見。
三合目 オリソは銀の道の三合目なので、そちらがわには行かずに、道行山の登山口をめざして、林道を歩いて行く。
轍の跡が消えていないので、関係者がわりと頻繁に利用しているらしい林道である。道端にはトリカブトなどが咲いていて、のんびり歩くにはいい場所だ。
10:06 いい水音がして、林道脇の左側から湧き水が湧いていた。
ツリフネソウやアカバナが取り囲むように咲いていて、とても気持ちがいい。
もう少し先まで行くと滝のようになった湧き水もあった。
この水を水筒につめて持っていってもいいくらい綺麗な水である。
こちらは滝状の湧き水。右は大きさ比較。
そこだけひんやりと涼しく、別世界のようだった。
10:18 もうそろそろ登山口のはずなんだけど、と話ていると、右側(川と反対側)に赤いテープを発見。(左写真の赤い矢印) それからその奥の細い杉にくくりつけられた簡単な道行山経由駒ケ岳の貼り紙(黄色い矢印) これは、本当に注意していないと見落とす。しかし、今思えばここで見落として、山に登れずに引き返したほうがよかった。 
10:22 小休止のあと道行新道に突入。草ぼうぼう。
10:28 踏み跡程度の草だらけの道を行くと、右に小さな沢を見下ろす場所になる。斜面にかろうじてつけられた道をロープ頼りに進む。
10:32 小沢を渡る。本当に小さな沢なので渡るのに苦労はしない。

そこから先がものすごい。
山の斜面をまっすぐ上にむかって直登している。容赦なくまっすぐまっすぐ登る。とにかく登る。登る。
何かの罰かと思うくらいに登って、やっとなだらかになる。
11:22 尾根に出て、石抱の方向がよく見えるようになる。銀山平温泉のログハウスの民宿群がいい目印だ。
ここまででかなりのエネルギーを消費してしまった。ゼリータイプの10秒メシでエネルギー補給。ほっと一息。
11:32 その後しばらく、尾根道を歩く。これもまた登ったり下ったりの道だ。時折ロープが欲しくなる崖のような場所もある。
11:41 再び直登。垂直にさえ見える斜度の道をただただ登る。ガンガン登る。
11:46 道がえぐれて樋状になっている。泥が磨かれたようになっていて、滑るし、樋状なもんだから他に逃げるすべもない。
樋状の道は、予想以上に段差が激しく、私の技術ではとても登れる状態ではなかった。
さりとて、ここから下るにはあの急角度の道を転げ落ちる必要がある。
下りが特に苦手な私としては、それもイヤだった。
仕方がないので、樋から這い出てブッシュにもぐりこみ、ブッシュを頼りに登るが、ストックが邪魔をして先に進めない。この時点ですっかり気持ちが折れていた。
もう山なんか登らないと、半分キレかける。
しばらく進んでようやく樋状の場所を過ぎ、笹だらけで道もよく分からないような場所で5〜6人のパーティーとすれ違った。
「こんな場所で人に会うとは思いませんでしたよ」と言われてしまった。
そんな場所なのか、ここは。
それにしても、初老の女性も含んだパーティーだったが、あのとんでもない道を下るのか。
すごいぞ。
12:05 ダンナになだめすかされながら、なんとか山頂に到着。
しかし、山頂は真っ白。霧の中だ。
360度の展望で越後駒ケ岳が美しく見えるはずなのだが。しかも、山頂標示も無いし。
ここで昼食と思って荷物を広げかけたら、霧が大粒の雨になってしまった。
ここでは無理だ。どこか木の下にでも行かないと。
慌てて撤収。
明神峠方面にむかって下り始めた。
12:11 山頂から下りるとすぐに明神峠と越後駒ケ岳を結ぶ明神尾根に出る。
我々は当然、明神峠方面に。
しっかり道しるべがあるので迷わない。
そこから先は岩っぽい急な下りの多い道になった。

12:36 雨を凌げる木も少ないので、明神峠まで行ってしまうことにする。明神峠なら屋根のある建物があるはずだ。
しかし、この道も時折ドロドロである。
12:38 小さい池が左側に出現。
12:43 別の小さい池に道が吸い込まれてしまって、回避ルートが作られている。

13:03 なお岩場のような道を行く。雨と霧で滑りやすく危険だ。天気予報では晴れに向かっているはずだが、いっこうに晴れる気配もない。標高が下がれば雲も切れるかと思ったが、その気配もない。
13:17 いいかげん下るのもイヤになった頃、明神峠という道しるべが出てきた。
あれ、ここに建物があるはずなんだが。
本で調べるともう少し下るとあるらしい。
13:21 十合目大明神に到着。峠自体が十合目じゃないのか。とにかく、避難小屋にもなっている明神堂におじゃまさせてもらう。
14:02 
昼食と休憩後、出発。霧はまったく晴れず、雨も降ったままだ。
ちなみに、雨具の用意が無かったので、濡れ放題である。
大明神を下ると、なんとすぐに分岐になってしまった。右に行くと枝折峠、左に行くと銀の道と標識がある。我々は銀の道だから、左。
しかし、ちょっと不安があったダンナが本を出して確認しようかと言ったが、雨に濡れると悪いので本はリュックの奥底にしまってしまっていた。
銀の道にはしっかりと一合ごとに標識があるので、九合目がしっかりあったら間違いないよ、と歩き出す。
14:15 九合目日本坂に到着。間違いないと確信する。まさか、右にも左にも九合目があるとは考えもしなかった。
14:34 ちょっと岩っぽい道とブナ林の中のなだらかな道を交互に進み、八合目仏堂に到着。ただし、建物などは無い。
14:49 八合目までの道とデジャブかと思うくらい同じような道をたどり、七合目千体仏に到着。

15:05 ちょっと危険な岩場に草が繁って道が見えないあたりを通過して、六合目 中ノ水到着。
15:20 五合目半腹石到着。
15:31 四合目水函到着。
本当に変化のない、ブナ林のなかのなだらかな下りが続く。まるで永遠に続くかのような下りだ。
雨はあいかわらず降り続いている。

15:47 三合目楢の木到着。
そこで初めてゲっと思う。確か行く時に見た三合目はこんなんじゃなかった。すぐそばに林道があったはずである。ここはまだまだ深いブナの森の中だ。いったいどういうこと。
この時点で初めて私は銀の道というのが明神峠から左右に分かれて伸びていて、両側に合数の標識があることを知る。つまり、反対方向に下っていたのである。
どうする。もう4時。このまま下ってしまって、終点の坂本からタクシーを呼んで反対方向の石抱に行くか?いや、待て、このびしょ濡れの姿でタクシーは無理だろう。
なんとしても、自力で登り返して、石抱にくだらなければならない。
ダンナが頭の中で目算している。ライトはある、と頷く。とにかく登るしかない。
16:16 五合目通過。すごい勢いである。下りで30分かかっている道を同じ30分で登っている。
16:34 六合目通過。まだ明るいうちに危険と思われた六合目と七合目の間を通過することができて、ホッとする。
16:51 七合目通過
足のバランスが悪いダンナに疲労の色が見え始める。私は下りより登りのほうがまだ好きなので、大丈夫だ。

17:06 八合目通過。何かに追われる犯罪者のように息を切らせつつ登る。
17:32 
九合目通過。ここまで来れば、峠はもう一息。少しペースが落ちる。
17:46 大明神の下の分岐に到着。ダンナが明神堂で5分休ませてくれと言う。
私は下りが苦手でトロいので、5分先に出発しても追いつかれると判断。この日没の早い時に5分は大きいので、先に行くことにした。
ここでダンナがヘッドランプをもたせてくれた。自分は懐中電灯があるから大丈夫だという。
疲労の色の濃いダンナを残して、ここで分かれる。

ところが、分岐から下ってすぐの場所にまた分岐があった。一方が枝折峠、もう一方が銀の道となっている。
しかも、銀の道は、草ぼうぼうで踏み跡さえあるのか無いのかわからない状態である。
しかし、終点の三合目オリソを今朝見てきているので、間違いなく銀の道方向に行かなくてはならない。ダンナを待つのももったいないし、ダンナも同じ判断をするだろうと、草の中に踏み入る。
あとで思ったのだが、せめて案内板に手袋でも置いてこっちに向かったのだと伝言しておけばよかった。
お互い、ちゃんと銀の道に行ったのか、最後まで不安だった。
17:53 草をかきわけ進むとすぐにちゃんと道が出てきた。そしてすぐに九合目問屋場に到着。
17:55 
さらに間をおかずに八合目水場に到着。なんだ、こっちの合目の間隔短いんじゃん。だったらすぐに着くじゃん、などと思ったら大間違い。
だが、概ねなだらかな道で、しかも、道が暗いなかにぼんやりと白く浮かぶ石がひかれていたらしく、まったく不安なく歩けた。

18:03 七合目焼山到着。このあたりからストロボをたかないと写真が撮れなくなる。どのあたりかすっかり忘れてしまったのだが、両側の土が間近に迫った樋状の細い道を通る。ちょっと滑って怖かった。
18:12 
六合目ブナ坂。
18:15 
眼下に国道352号がいきなり出現する。おおきくつづら折にカーブしている綺麗に舗装された道だ。がんばればその道に下りて、舗装道路を下ることもできそうだったが、どう見ても銀の道よりも迂回する長い道のりになりそうだ。それに、まだ完全に暗闇になっていないので、道が見える。このまま進もう。
18:23 五合目松尾根。ここまでに道が崩落しかかっている場所があり、平均台のように崩れた道の上を歩く箇所があった。私はまだ明るさが残っていたのだが、ダンナは大丈夫だっただろうか。
このあたりから深い林の中に入り、本当に真っ暗闇になる。
それまで帽子につけていたライトを手にもってしゃがみこむように道を照らしながらおそるおそる進む。
四合目を見落としたが、そのあたりで北ノ又川の対岸にある民宿群から楽しそうな人の声が聞こえ、明かりも木々の間から見え始める。
すぐそばに明かりが見えるのに、真っ暗な山の中は私だけ本当に一人である。ダンナは追いついて来ない。
18:49 やっと三合目オリソに到着。目の前に林道の橋のコンクリート部分が見えて心底ホッとした。
それにしても、ダンナが追いつかない。まさか、転落したとか、足くじいたとか。
18:56 林道を歩き、国道352号に合流(右写真)。
19:06 国道を歩き、駐車した場所に到着。当然ながらダンナはいない。自動車の鍵はダンナが持っているし、待つ意外にない。
19:30 30分近く待ってダンナ到着。泣きたいくらいホッとした。この待っている時間の長かったこと。もう山で別行動は絶対にやめようと思った。

・・・と、まあ、これが遭難未遂事件の顛末である。
午後7時過ぎに自動車の前に到着し、5分後には来るはずのダンナがなかなか来ないので、私は8時まで待って来ないようであればダンナの身に何か起きたと判断して歩いて5分もない場所にある日帰り温泉施設なり民宿なりに駆け込んで助けを求めるつもりだった。そうなったら警察沙汰だし、大掛かりなことになるんだろうなぁと覚悟もしていた。
ただ、命の心配はないと思っていた。滑落するような道ではなかったのだ。唯一の心配は猛獣だけど。
国道を歩いて下りて行く時に一台の自動車が通り過ぎ、びしょぬれでトボトボと歩く女を不信に思ったのだろう。私が自動車の前にいると、その自動車が戻って来た。とても心配してくれたが、連れを待っているし、もう少し待って来なければそばの民宿に助けを求めますと言うと、心配しながら去って行った。ありがたかったが、切なくなった。それから、自動車から見えにくいトイレのそばで待つことにした。
ほどなく、ダンナが心細いペンライトを照らしながらやって来た。
私には懐中電灯と言っていたが、ダンナが持っていたのはペンライトだけだった。これじゃあ急いで来れないわけである。
ともかく、ようやく合流できたので、トイレでびしょ濡れの衣服を全身着替えた。着替えてから日帰り温泉施設に行ったら、もう閉館だった。周りの民宿でバーベキューなどやっていて、疲弊している我々となんとも対照的だと思った。
仕方がないのでシルバーラインのトンネルを通り抜け、湯之谷のゆ〜パーク薬師で入浴。だが、ここのレストランもすでに閉まっていたので、高速道路のサービスエリアで遅い夕食をとった。
高速道路を利用しても家に着いたのは午後11時前。いやはや、長い一日だった。
この日、夜、暗い山の中を歩く夢を見た。さらに、レポートを書くために写真を整理した日も見た。そして、レポートを書いた日の夜も見た。どうもトラウマになってしまったようだ。
だが、なんとなーく、もう一度道行山には登ってみたい、などと思ったりしている。真っ白だった山頂からは何が見えるんだろう。
それから、暗闇に追いかけられた銀の道も、明るいときに歩いてみたい、とも思ったりしている。
だけど、今年はもういいや。それから雨の中歩くのは、今年に限らず、こんりんざいもういいや。

どうぞ皆さんは、我々のように危ないことはしないで、きちんと計画を立て、きちんと準備をして、現地でもしっかり確認して行動してください。

銀の道の詳しい地図はこちらを参考にしてください。


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