番外

 の山

2008/8/2  雨飾山(あまかざりやま) (1,963.2m) 糸魚川市(長野県小谷村)
この2週間前、火打山に登った。休憩含めてだが、12時間近く歩いたうえに過労状態になり、帰りの車中で私は完全にダウンしていた。(火打山のレポはこちら)だというのに、その後、山の本をめくっているうちに、あれれ、という事実に気がついたのである。
火打山の道標は、全体の9キロを割って、9分の何、という形になっていた。つまり、1つ1つの間は1キロメートルである。ところが、雨飾山の標識は、なんと1つ1つの間が400メートル、それが11個ある、というのである。つまり、全体の距離は4.4キロメートルだ。あら、火打の半分以下なんじゃないの。
色々調べて、雨飾山より火打山のほうがいいだろうと判断して火打山に登ったはずなのに、その判断材料をすっかりどこかに忘れ去って、登れる、と確信してしまった。
いや、火打と雨飾を比べてどちらに行こうかといっていたのには、キヌガサソウを見たいという大きな理由があった。
雨飾ではキヌガサソウを見ることができない可能性があったのである。しかも、キヌガサソウがあるのは新潟県側から登るルートで、これがかなり厳しいらしい。
しかし、キヌガサソウにこだわらないのであれば、長野県がわから登ったっていいわけで、それならそんなに苦労しなくても登れるんじゃなかろうか。なにせ、火打の半分以下。
ここまで読まれて、一度雨飾山に登ったことのある方なら、距離で測るな、距離で、と突っ込みを入れていると思う。
そうなのだ。そこが我々の甘いところなのだ。
今回、きっちりとそれを勉強させていただいた。
いやはや、永年初心者には本当にとんでもない山でございました。
今回は所用時間も短いと踏んで、出発を少し遅めに設定。
8時ちょうど、長野県小谷村の小谷温泉からさらに登った雨飾高原キャンプ場前の駐車場に到着。
ちょうどタクシー1台、乗用車が我々のものを含めて3台と4台が団子になって駐車場入りした。みんな登山者か。
30台ほどとめられそうな駐車スペースが満車だったので、やや広い路肩の脇に駐車する。
ここには綺麗なトイレと休憩舎、缶飲料の自動販売機(1つ150円)があった。
休憩舎には登山届けではなく、これから登山する人のために書き残しておいてください、といった趣旨のノートがあり、ざっとめくると、笹平から上の登りがキツかった〜、と色々な人が書いていた。そうか、キツいのか。
8時10分、身支度を整えて出発。同時に着いた4組がほぼ5分おきくらいに出発して、我々は2番手くらいだ。
トイレの脇の登山道入り口から、まず下る。げ、下山時は最後の最後で登りかい〜、と恨めしくなる。
すぐに木道になり、湿原らしい場所に突入。道の両端に巨大ミズバショウの葉っぱがジュラ紀を思わせる感じで現れる。
同時に着いた富山ナンバーの男性がダブルストックでぐいぐい歩いて我々を追い越して行った。早いんだろうなぁ、ああいう人は。
8時15分、11分の1の標識。なぜか11分の1はそんなに離れていない場所に2つある。
8時20分、11分の2の標識。ここにはベンチがあり、休憩できるようになっている。
黄色い杭が立っていて、山頂まで180分、荒管沢まで90分、とある。
ここまではまったく平坦で、道も歩きやすい。しかし、ここから先がガツンと登ることになる。
8時35分、11分の3の標識。ほぼ木の根っこの階段状態の道である。
かと思えば泥っぽい急斜面だ。3歩歩くと3歩前の頭の位置くらいに登ってしまうくらいの角度だ。
右写真に駐車場に同時に到着した松本ナンバーのご夫婦が写っている。暑いですね、ホントに暑いですねー、と汗だらだらで挨拶しあう。
イヤ、マジで熱中症になるかと思うくらい暑く、額から汗が滝のように流れて目に入る。
たまらなくなって、タオルを頭に巻いて汗を吸収させるダンナ方式を採用。けっこう効きました。
8時52分、11分の4の標識。途中休憩していた別のご夫婦と、またしても暑いですね、と挨拶。こちらのご夫婦のほうが我々とペースがほぼ同じで、頂上付近までデットヒートになる。
松本ナンバーのご夫婦はずっと早かった。
傍らにはツルアリドオシの花が。
うーむ、私の経験上、ツルアリドオシの多い山はロクな山が無い。たいていヘロヘロになって疲れ果てている。この山もそうなのか。いや、この段階で半分死にかけいるぞ。
8時55分、ちょっとだけ平らになっているブナ平という場所に到着。黄色い杭が立っていて、山頂まで120分荒管沢まで30分、とある。
またしても急登だ。
石ゴロゴロの急な登りやら、泥っぽい登りやら。
時折サンカヨウの綺麗な紫の実がみられるが、他に花らしい花はない。
樹林帯なので直射日光は無いのだが、かわりに風もあまりなく、とにかく汗がひどい。
すぐ先に荒管沢があるので、水は補給できる。惜しみなく飲む。
9時12分、11分の5の標識。たった400メートルの標識の間がものすごく長く感じられる。
少し行くといきなり林道?と思うくらいの広さの平坦な場所になる。ちょっと泥がひどくて歩くのに困るが、急登よりずっと楽だ。が、それほど長い間ではない。
9時25分、平坦な道が土嚢で補強された下り階段になった。いよいよ荒管沢への下降である。今まで急登でここまで来たので、下降するのが腹が立つったらしょうがない。
はるか下に荒管沢が見え、米粒より小さく人の姿が見えた。
あそこまで下って、また登るのか〜。だれか、巨大な吊り橋かけてくれ〜。
9時30分、下り道の途中で11分の6の標識。泥っぽい道をずるずるっといった感じで下るので、帰りの登りが思いやられる。
しかし、沢に近づくと冷たい心地よい風が吹き始めた。
両側にモミジカラマツやカラマツソウの姿が目立つ。
9時35分、荒管沢到着。
上流を見るとまだ雪が多く残っていた。いや、下流がわも残っている。ちょうど渡渉する場所だけ雪が無い感じだ。
雪解け直後のここはまだ初春で、サンカヨウやニリンソウが咲いていた。
我々はここで小休止。凍らせたゼリーを摂って、水を補給。夏でも涸れない沢なので、山頂の食事用の水も空のペットボトルを持ってくればここで得ることができる。水はさすが雪解け、手が痛くなるくらい冷たい。
ここで、同レベルのご夫婦が追いつき、どれが山頂ですかと尋ねてきた。わかりませ〜ん。ご夫婦は休憩しないで先に進んで行った。
9時50分、渡渉。荒管沢はけっこう大きいのだが、ペンキの印をたどれば楽々と跨げる場所がある。渡渉後、沢に流れ込む支流の脇を少し登るがすぐに沢から離れる。
いきなりまたしても急登。
げげ、ハシゴ出現。それくらい急だ。次から次にここにもハシゴください、という登りになる。すぐ上に先に進んだご夫婦が見える。おっと、奥様が落石。我々のすぐ前で止まって事なきを得た。大丈夫ですー、と手を振る。
げげげ、ロープ出現。登りではなくてもかろうじて登れそうだが、下りには活用させてもらえそうなロープだ。なにせ、泥っぽいので、足場が悪い。
まだかまだかと待ち遠しかった道標がようやく見える。
10時08分、11分の7の標識。
時々樹林帯をぬけ、見通しがよくなったり、また樹林帯になったりする。
10時42分、11分の8の標識。
あとあと振り返ってみれば、私としては、この荒管沢から11分の8までの間が一番キツかった。これでもか、これでもか、という登りが体力も気力も全部そぎ落としてくれた。
それほど水分を必要としない私が手持ちの水を飲みつくして、ダンナが予備に持って来ていたお茶を分けてもらったほどである。このお茶のおかげでここから先を歩けたようなものだ。
見通しがよくなると、これから進む登山道が見えてくる。
おお、登っている人の姿が見える。あの斜面が笹平から上のキツい登りか?
いやいや、ずっとまだまだ先です。
右は、脱水症状を起こしかけながら発見してしまった見慣れない花。
オオヤマサギソウではないかと思われる。
11分の8をすぎると、ガレた道になる。日光をさえぎるもののない場所で、つづら折に登って行く。途中でなんと小学生低学年程度の兄弟をつれた人とすれ違った。君たち、このとんでもない登りを登って、もう下りて行くんだね。偉いぞ。と、汗だらだらで思う。
つづら折の最後あたりで、花がチラホラ見られはじめる。タテヤマウツボグサのクガイソウの紫、ハクサンオミナエシの黄色、アカバナノシモツケの赤、ホタルブクロ、ヤマハハコの白。ついにここがお花畑という笹平か?
いやいや、まだずっと先です。
岩をぐいっと登ると、目の前に白い岩の列が山頂に向かって伸びていた。
え、あれ、登山道ですか?あれは、岩の並びって言いませんか?あれ、行くんですか〜っ?
思いっきり気持ちが後ろに引ける。
うえっ、どうやって登るんだ、この岩。という岩を突起をたよりに登って行く。もはや足だけではとても登れない。
下山してきたかなり高齢の女性が、ヘロヘロの私を見て、この上のお花畑は見事ですよ、がんばってと言ってくれた。
それだけを楽しみに登ります〜と返す。
時折ハシゴも出てくるのだが、このハシゴ、もうかなり風化している。木が朽ちかけているし、横木をくくってある針金も錆びている。怖いったらありゃしない。
この上にものすごく長いロープが下がっている崖かと思う場所があって、下りのおばさんの一団がいた。1人につき5分以上かけてきゃー落ちる、とハラハラさせられながら下っている最中で、いっこうに登れない。
我々のあとから単独の男性が来て、ロープをたよらずに崖をよじ登るように強引に登っていったので我々もそれに習った。
ここでは下山する人とバッティングするとゆずってくれない限り長時間待ちそうである。
11時25分、11分の9の標識。
賽の河原か、というくらいガレた場所で、どこをどう登っても浮石に足をとられそうである。
しかも、炎天下。暑いったら仕方がない。
ダンナのこの花はなんていう花なのか訊かれても「知らない」としか答えられない。知っていても思考能力が停止している。答えるのがイヤになっている。
ちなみに、右はコゴメグサ。
11時32分、笹平の標識。
このあたりはツリガネニンジンとギボウシの薄紫が見事に満開でとても綺麗だったが、体力的にはそれどころではなかった。
山頂から下って来た人たちがものすごく疲労した様子で「ああ、疲れた」なんて標識の場所でへたり込んでいるのを見て、絶望的になる。下りでもそんなに疲れるんだ。
さすが笹平。見渡すかぎり笹の波である。それがなだらかな起伏を繰り返し山頂に向かっている。
笹にまじって、ハクサンフウロがたくさん咲いていた。
終盤のグンナイフウロもあったのだが、てっきりハクサンフウロの枯れた姿だと思って写真におさめていない。残念。
11時42分、笹平から少し下って新潟県がわからの登山道との合流点。ものすごく立派な道標がある。ここから新潟がわと長野がわは同じ所用時間とあるが(2時間50分)信じないほうがいいと思うな。
ちょっと登って、またお花畑。ありとあらゆる色の花が咲き乱れている。
蝶もたくさん飛んでいてパラダイスのよう。
ただ、ギボウシやシモツケ、クガイソウなど、そんなに高い標高でなくてもみられる花が多いので、私としてはちょっとだけ気が抜けている。
11時48分、11分の10の標識。
笹のはるか向こうに山頂が見える。あれがキツいという最後の登りか。
このあたりで、すでに下山を始めた富山ナンバーのダブルストックの男性とすれ違う。
早いですね、というと、こんなにエラい山だとは思わなかったと言っていた。
我々は早くないが、同感である。
最後の登りにとりかかると、花が右に左に上に下にと覆いかぶさるようになる。
いやはや、本当に花だらけ。
登りは確かにキツいが、花があるので頑張れる。
最後の登りの途中に左のような「ふりかえれば荒スゲ沢」という看板があるが、振り返って見えるのは右のような図。見えないじゃん、荒管沢。
もうちょっと下のほうが綺麗に見えます。
この登りだけで、タカネナデシコ、オタカラコウ、ミネウスユキソウ、ミヤマダイモンジソウ、エゾシオガマ、イワオウギ、などなど、降るような花が見られる。
ついに斜面を登りきり、左右に道が分かれた。
右側は新潟県側の山頂、左側は長野県側の山頂。長野県がわに三角点があり、山頂の標識がある。
12時17分、山頂到着。
山頂はゴロゴロした石だらけで、それほど広くない。
だが、石がちょうどうまく椅子の役目を果たしてくれて、休憩には困らない。
4、5組の人たちが休憩中。
我々も笹平が見下ろせるがわに陣取り、昼食休憩。
お互い疲れ果てて、ものすごく不機嫌だ。仕度するのもイライラ。
それでも、よく冷えたビールを取り出して一口飲むとご機嫌も治る。
なにせ、生涯でこれほどおいしいビールを飲んだことがない、というくらいおいしかったのだ。
これだから山はやめられない?
ラーメンのお湯が沸くころに追いついたご夫婦は、山頂にタッチしてすぐに下山、お花畑の真ん中に張り出してある休憩できそうなスペースで昼食をとっていた。
13時05分、下山開始。
帰りも花を撮影しつつ行く。
左端は新潟県側の山頂の石仏。
振り返れば荒菅沢とは、←を言うのだろう。
花に彩られて、雪崩で削られた布団菱、という地形が見える。
13時32分、11分の10。
13時36分、新潟長野の分岐。
13時43分、笹平の標識。
13時48分、11分の9。
14時39分、11分の8。
14時54分、荒管沢渡渉、休憩。

15時15分、11分の6。
15時43分、ブナ平。
15時46分、11分の4。
16時00分、11分の3。
16時14分、11分の2。
16時21分、11分の1。
16時28分、入り口到着。ご苦労様でした。
なんだ、火打の半分じゃん、で行ってしまって、はっきり言って後悔した雨飾山ではあるが、実際に下山してみたら火打よりも元気があった。やっぱり行程のキツさよりも、行程の長さがものを言うらしい。雨飾山はキツかった、大変だったという印象はあるものの、体力的にはやはり火打山のほうがキツかったと言える。
しかも、暑かった。
太陽の直射を受ける笹平から頂上も暑いことは暑かったのだが、それよりも樹林帯の蒸すような暑さがこたえた。滝のような汗、というのがこういうことなのか、と体験した。汗が流れ出る分、水分も多くとったので、途中で足りなくなるという事態になってしまった。この季節に登山する人は水分は多めに持っていったほうがいい。
お花畑については、その場の感想では、2000メートル近い山のわりには低い山でも見られるギボウシだのクガイソウだのばっかりだわね〜、とちょっと期待はずれと思っていたのだが、帰り着いて写真を見てみると、11分の8の標識より高い場所は、どの写真を見ても花を撮るつもりもないのに花が写りこんでいる。とにかく花だらけ。しかも、赤、紫、黄色、白と華やかである。期待はずれと思ってごめんなさい。見事なお花畑でした。滝のような汗の流れる夏だからこそ溢れんばかりの花が見られたのだと納得しよう。
登山開始の頃には一杯だった駐車場も、我々が戻った4時半にはほんの数える程度の自動車しか止まっていなかった。
その後はすぐ下の小谷温泉の雨飾荘で掛け流しの温泉(400円)に浸かり汗を流して帰宅。ここには無料の露天風呂も少し離れた場所にあるというが、今回は立ち寄らなかった。

雨飾山(小谷温泉口) 
  新潟県から行った場合、最寄ICは、関越自動車道糸魚川IC。インターを下りて、国道148号線(松本街道)を長野側に向かって走る。この道は幹線道路で道が細くなっても大型トラックが多数通るので通行には気をつけよう。長野県に入るとトンネルがいくつか連なる。このトンネルとトンネルの間にいきなり小谷温泉に行く県道114号があるので、見落とさないように注意が必要である。性能の低いナビだとトンネル内で案内が追いつかなくなるので、道路標識はしっかりと見ておこう。
県道114号に入るとあとは道なりで小谷温泉、温泉を通り越して村営雨飾荘、さらにもう数キロ先まで走って、雨飾高原キャンプ場まで自動車で行ける。意外に小谷温泉から距離が長いので注意が必要。
  登山口の駐車場は30台ほど駐車できるが、満車の場合はすぐ手前に第二駐車場がある。駐車場にはトイレと休憩舎と自動販売機がある。
  登山道は迷うこともない整備された道だが、夏場はとにかく暑い。一跨ぎできると思うが、荒菅沢を渡渉する必要がある。さらに、笹平直下はほとんど岩登りなのでその覚悟も必要だ。


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