番外

 の山

2009/6/28  巻機山(まきはたやま) (1967m) 南魚沼市
人の記憶ほど不確かなものはない。
と、いうのも、実はこの私、高校時代に巻機山には少なくとも3回登っている。3回である。在学中、毎年登っていることになる。
だというのに、まったく登山の途中の記憶がない。
前夜とか当日の夜の山荘の記憶は、やたらにはっきりとしている。ついでながら、山荘にあった鐘に刻まれていた文言まで覚えている。これを書くと、私と同じ出身校で同じ山荘に宿泊したことのある人が読んでいたら、あ、○○高校だ、とわかってしまうくらいのことである。
ちなみに、「巻機の山峰々にこだまして、大空高く響けぞと思ふ」(細部うろ覚え〜)である。
だっちゅうのに、なぜか登山の記憶が無い。きっぱり無い。あまりに辛くて喪失してしまったのか、ものすごく楽で記憶にも残らなかったのか。とにかく、無い。
そんなこんなで、巻機山には、その記憶の発掘という意味もあって登らなければならない理由があった。
しかし、どうせ登るなら、花が綺麗に咲いているシーズンがいい。
と、いうことで、選んだのが6月最後の土曜日だ。
午前5時過ぎに家を出て、過去何度も割引沢の滝たちを見に来ている清水、桜坂の駐車場に向かう。(割引沢の滝のレポはこちら
           (写真数が多いので、サイズを小さくしています。花の写真は、ダンナのHPのアルバムでご覧いただけます。)
6時45分 駐車場到着。満車。県外の自動車だらけだ。仕方がないので、トイレ近くの未舗装の駐車場に自動車を入れる。我々のあとからも次々と自動車が来て、もう満車なんですね、と挨拶を交わす。仕度の後、出発。
6時50分 登山届け提出。登山開始。
すぐに沢コースとの分岐になる。ここを矢印に従って井戸尾根コースへ進む。
自動車も通れそうな道を通り登山道の入り口を示す道標もすぐだ。この道標がおそらく2合目なのだろう。
6時56分 いよいよ登山道になる。
道標から登山道に入ると、いきなり、ここは雨が降ると沢になるかもしれない、といった感じの石のゴロゴロした登りになる。ジメジメとした感じだ。
7時07分 え、これ道標?と疑いたくなる縦半分に裂けた道標を発見。どうやら三合目と書かれているらしい。もう三合目?かなり拍子抜けする。
ここで90度左に曲がる感じで登山道を登って行く。
まだジメジメした感じの泥っぽい道で、本当に人気の山なのかしらん、と思うくらい雑草が右から左から覆いかぶさってくる。
7時15分 三合五勺。五勺って・・・。さっきの道標とうって変わって、立派な道標だ。どうして三合目はこれにしなかったのかしらん。
さらに単調な登りが続く。木の根と泥といった感じの登りだが、それほど斜度がキツイわけではない。
7時25分 四合目。あら、ここの道標も古いままだわ。
それにしても、花がない。せいぜいギンリョウソウがあるくらいだ。
7時37分 四合五勺。このあたりからぼちぼちブナの林が見られはじめる。
とても美しい。斜面にブナが空に向かって伸びている。
ハルゼミの声も聞こえはじめ、ようやくジメジメした感じから脱出できる。
このあたりが「井戸の壁」という場所らしいが、壁というほどの傾斜ではない。
なんか、先週の登った粟ケ岳の五合目粟薬師のすぐ下みたいな感じだなぁと思いながら登って行く。ブナの斜面がとぎれたあたりに飛び出ると、五合目だった。
7時49分 五合目「焼松」到着。たくさんの人が休んでいる。
ロープの張ってある先を覗くと、米子沢が見下ろせた。おお、ものすごい滝の連続だ。あれを登る人もいるんだなぁ。すごいなぁ。
ここで、水分補給。まだ午前も早いので、水はそれほど飲んでいない。
さっき下から登ってきたブナ林のてっぺんを林に沿って歩く感じで登って行く。ゆるやかな登りだ。五合目から先は、なんとなく植物も高山系になったような気がする。
8時06分 五合三勺。三勺って・・・。
だんだんと傾斜がきつくなってくるような気がする。泥と木の根の道が、登りやすい場所を選んであちこちに広がってしまっている。どこをどう行けばいいのか、選択に困る。
8時19分 五合七勺。こんどは七勺かい〜っ。
このあたりからイワカガミが咲いているのが見られ、マイヅルソウも見られはじめる。
8時32分 六合目、「展望」
真ん中の写真のように、天狗岩と尾根伝いに続いている割引岳がよく見える。
白いのは、まだ雪の残っているヌクビ沢だ。
滝好きの我々は、「行者の滝」がどのあたりか、凍らせたエネルギーゼリーをとりながら、しばらく眺めている。
8時48分 六合三勺。ここや、この先の木々の間からも、天狗岩がよく見え、だんだん高度が上がっているのがわかる。
このあたりの登りが「檜穴ノ段」という登りらしい。
マイヅルソウやイワカガミが慰めてくれるが、単調な登りである。
9時03分 六合七勺。
あいかわらず、泥っぽい、滑りやすくえぐれた道を登って行く。
ピッチの短い道標がいくらかの励みになる。
六合七勺より先は、だんだんと潅木っぽい植物相になってくる。
いきなり日光が降り注ぐようになり、道も泥から岩が目立つようになる。
その岩の端々にアカモノがどっさりと咲いていて、まるで登山道ではなくて、ロックガーデンのようになっている。
あっちにもアカモノ、こっちにはゴゼンタチバナ、などと歩いているうちに、いきなりガレた赤茶けた場所になった。
人がたくさん休んでいるのが見えて、そこまで行ったら七合目だった。
9時19分。
岩が露出しているので、腰掛けて休むのにちょうどいいのだが、日差しをさえぎるものが何もない。
ここで5分ほど休憩。
七合目から先は、笹の中をひたすら登って行く。日光が痛いくらいだ。
だが、笹の根元にツマトリソウやタテヤマリンドが姿を現し、あっちにも、こっちにも、と言っている間に登ることができる。
9時48分 七合五勺。
このあたりで、「南風日和」のなんちゃんからメール。なんと、今避難小屋あたりにいるらしい。
とりたてて、約束していたわけでもないので、びっくり。
それにしても、すごい数のタテヤマリンドウで、ある場所ではこんなに群生していていいのか、というくらい咲いていた。
白花もありました。
10時02分 八合目。植生保護のために、横木が施されている。そこでたくさんの人が休憩中。
我々は休まずに登り始める。
七合目から八合目のあたりには、ベニサラサドウダンやガクウラジロヨウラクなどが咲いていた。
特にベニサラサドウダンは見事なまでにまっかっか。
ガイドブックなどには、七合目から八合目までの登りが大変だ、と、よく書かれているのだが、クソ暑いこの日は、炎天下の植生保護はムチャクチャきつかった。
写真は三連続階段。どんなに登っても登った気がしない。
ああ、空が青いったら。
見事なまでの晴天。雲ひとつ無い。
気が遠くなりかけたころ、ようやく一つのピークになった。
10時22分 九合目、ニセ巻機山。前巻機と書かれているガイドブックが多いが、なにせ道標にきっちり「ニセ巻機」と書かれている。前でもニセでもなくて、もうちょっとちゃんとした名まえをつけてあげればいいのに。
ここで休んでいた人が「ホンモノ見えますよ」と教えてくれた。
で、右の写真がホンモノ。
矢印のあたりが巻機山の山頂。ずっと右側に尾根沿いに歩いて行くと牛ケ岳になる。
で、その尾根沿いに歩く人がきっちり見えてしまったりする。
もちろん、これから登る登山道もよく見えて、ちょっとげっそりする。
九合目から先は木道になっている。避難小屋までやや下る。
ここから先にはイワイチョウやワタスゲの白いポンポンが見えたりする。
だが、この木道、かなり痛んでいて、かえって怖い。
植生保護のため木道をはずれないようにとはいえ、安心してその上を歩ける木道ではないので、どうしてもはずれてしまう。
10時38分 九合五勺「水場」
綺麗な避難小屋があり、この中にバイオトイレもある。だが私が行った時には並んでいたので、裏にもあるというトイレを使用。これがまあ、ドアを閉めると真っ暗なうえに、古い形の汚いトイレでした〜。トホホ。
小屋の正面の木道を少しだけ下ると、米子沢の源頭の水場なのだが、今は雪が覆いかぶさっていて、その雪解け水が地面を這っている感じ。がんばらないと汲めない。
この水場をあてにしていたので、ちょっと残念。
食事用の水は用意しておいたので困ることもなかったのだが、帰りの水分がやや不足ぎみだった。
水場のあたりで、綺麗なハクサンコザクラをみつけた。
ちょうどこのあたりで、上空をヘリコプターが旋回して行った。遭難か、と思ったが、巻機山方面で着陸した形跡はなかった。
まさか、沢コースかなぁ。雪、たくさんあったのに。
10時50分ころ、小屋前を出発。
小屋からなだらかに木道は続き、小さな池塘になっている。
ワタスゲの間に綺麗なピンクの花が見えたので、ハクサンコザクラかと思ったら、イワカガミだった。
このあたりで、なんとツアーらしい団体とすれ違う。そういえば駐車場に、バス、止まっていたなぁ。
さて、ここからが辛い。たいていのガイドブックには「ひと登り」と書かれているが、そんなもんじゃない。
直射日光がキツく、階段が容赦なく、とにかく足が前に出ない。
外見からもヘロヘロ状態がよく分かるらしくて、「もうちょっとですよ」と下る人が声をかけてくれる。
う、ウソだろ〜、そのもうちょっと〜っ。
あ、階段の先になんちゃん発見。と、遠い〜っ。近づかない〜っ。
11時15分 山頂(御機屋)とうちゃく。
本当の最高点はもう少し先だが、ここで気力が尽きる。
だって、山頂って書いてあるんだもん〜っ。
なんちゃんは、先に牛ケ岳に行って来られたとのことで、これから昼食らしい。
御機屋にいくつかあるベンチに陣取って一緒に食べて、そのあと最高点まで行くことにした。
御機屋から牛ケ岳までは、ガイドブックによると、往復1時間半ほどだ。ゆるやかな山稜を歩いて行く。もちろん、牛ケ岳まで行くつもりはない。そっちがわに10分ほど進むと最高点とガイドブックにあったのだ。
なんちゃんはもう一度同じ道を我々につきあってくれている。
ところが、どこがその最高点なのかよくわからない。
三角点があるわけでもないのだ。
どうやらここらしい、という場所にケルンが積んであった。
何か書いておいてくれ〜。
上の写真は、その最高点から見えた牛ケ岳。
その向こう側に越後三山が見えるはずなのだが、なんとなくかすんでいた。
左の写真は、最高点から戻る途中に御機屋方向を撮影。
向こう側の三角の山がたぶん割引岳。
牛ケ岳、巻機山、割引岳を総称して巻機山ということらしい。
右の写真は御機屋から撮影した登って来た道。
赤い矢印のあたりに避難小屋がある。
なんか、なだらかに見えてしまうのがムカつくくらいの、綺麗な稜線である。
12時21分 御機屋出発。下山開始。
登りはゼイゼイと登った階段も下りはあっという間だ。
きっと足が動かなくなるだろうと思われた、ニセ巻機への登りも、木道のおかげなのか、思っていたほど辛くなかった。
登りの時に気がつかなかったのだが、下山時、九合目の道標の向こう側にシャクナゲがたくさん咲いているのを発見。
うわ、こんなに咲いているのに、気がつかなかったなんて。
12時55分 9合目。
13時04分 8合五勺。  13時09分 8合目。
13時19分 7合五勺。  13時34分 7合目。
ずっとなんちゃんが先行して歩いてくれる。
が、ずーっと先に行って、私からは見えない。くだり、苦手です。
13時47分 6合七勺。  13時56分 6合三勺。
14時02分 6合目。   14時13分 5合七勺。
14時21分 5合三勺。  14時30分 5合目。
ここでなんちゃんに追いつき、休憩しているなんちゃんを追い越す。ストップすると暑くて、メガネが雲ってしまうんだもん。
でも、すぐに追いつかれる。
14時40分 4合五勺。  14時51分 4合目。
14時59分 3合五勺。  15時05分 3合目。
15時15分 登り口。   15時20分 駐車場到着。
いやはや、ご苦労様でした。

実は、巻機山、井戸尾根コース、登りの7合目までは、かなり楽だった。
なにせ、駐車場が一合目。そこから平らな道を5分とたたずに二合目らしい。つまり、最初に出て来る道標が三合目なのだ。そこから先もそれほど急登というわけでもない。むしろ、先週の粟ケ岳や先々週の二王子岳のほうがずっとキツかった。
だが、7合目から先が問題だった。いや、7合目から8合目までもまだ花があったりして笑っていられたのだ。
8合目からの荒涼とした植生回復の横木の連続。炎天下にこれはキツかった。やっとニセ巻機の9合目に登りついたと思ったら、これから登る道が延々と見える。精神的に萎える。下って9合5勺。つまりあと5勺で山頂というのだが、その道標はどうしても信じられない。
私の感覚でいえば、7合目の道標が5合目。8合目が6合目で、9合目のニセ巻機は7合目だ。9合5勺の避難小屋は8合目。その先の坂を登ったあたりが9合目(ここには道標はないけど)。最後の階段を登って山頂。そんな心構えで登ったほうがいいんじゃなかろうか。うん。
その後、汗だくになってしまったので、「金城の里」という温泉施設で入浴。(前に行った温泉のレポはこちら。ただし、料金は320円になっていた) 一休みして、なんちゃんと分かれた。
ところで、私の消えてしまった高校時代の記憶はよみがえったのか。
答えは、否、だった。
こんな登山道、登った記憶が無い。
登ったことのある道なら、少しは思い出すはずじゃなかろうか。
しかも、8月の夏休みを利用して登ったはずだが、雪渓を登ったはずだ。だから、てっきり雪渓があるのだと思っていたのに、井戸尾根コースには今の季節でも雪渓は無かった。すると、コースが違うのか?
え?素人の女子高生を、まさか沢コースで登らすか?ますますもって、記憶が混迷している有様である。
ということは、沢コースを登って記憶発掘しなくちゃならないのか?それとも、埋もれたままのほうが幸せなのか。
ともあれ、登ってもなお、巻機山は私にとってミステリアスな山のままだった。

巻機山清水登山口桜坂駐車場
 関越自動車道六日町ICを下りて国道253号を経て国道17号に出る。六日町駅方面へと右折。少し走って、案内板の国道291号という案内に従って左折。国道291号へは右折して入る。商店街のような場所を通り、少しすると道が開け、右側にセーブオンがある。昼食などを購入したい場合はここが巻機山までの最後のコンビニなので、通り過ぎないように。
国道291号は意外に民家が多く、どこから清水の集落なのかよくわからない。いきなり右側の川の方に小さく巻機山登山道と書かれた杭があり、左折するように指示している。これは見落とす可能性が大きいが、心配することはない。
もう少し走ると、清水のバス停がある。ここは少し広くなっているうえに、『巻機山の登山案内図』と『中部北陸自然歩道コース案内』の2つの大きな看板があるので見落とさない。この登山案内図で道を確かめ、桜坂駐車場まで行こう。
 桜坂駐車場はバス停からやや戻る感じで坂を上り、民宿兼食堂の「上田屋食堂」の右側の坂を上り、けっこう自動車を走らせた先にある。
まずキャンプ場の管理等駐車場というのが現れるがそこではない。さらに坂を上るとアスファルトの駐車場が左に現れる。そこに料金所があるが早朝には人はいない。
そこを通り過ぎ、さらに進み、小さな橋を渡ると大きな駐車場がつきあたりにある。これが桜坂駐車場。午前7時に到着した時点ですでに満車だった。
満車の場合は、トイレの近くに未舗装の駐車場が、さらに料金所の近くにアスファルトの駐車場がある。
早朝には料金所に人がいないが、帰る頃にはちゃんと人がいて、一日500円徴収される。(ちなみに半日300円。バイク300円である。)
井戸尾根コース登山道は、鎖場などもなく、概ね整備されている。だが、水場が9合5勺の避難小屋にしかなく、雪が多い場合はそこもあてにならない。長時間の登山なので、水は多めに持って行こう。


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