番外

 の山

2010/8/28  谷川岳(たにがわだけ) 標高1977m(オキの耳) 
はっきり言って、この夏、谷川岳に登るつもりは毛頭なかった。というか、谷川岳は私の頭の中では登る山のうちに入っていなかった。
なにせ、谷川岳は私の中では暗い山であるイメージが強い。
なぜかというと、トンネルである。
新潟に住む私は、ずっと昔から東京に出る前にかならず長い長いトンネルで谷川岳の真下を通った。JR在来線でも、新幹線でも、高速道路でも、かならずトンネルがある。そのトンネルはとにかく暗くて長くてつまらなかった。
谷川岳は山というよりは暗いトンネルのイメージがつきまとっているのである。
しかし、谷川岳は山頂が新潟県境であること、つまり、概ね群馬の山であると分類されがちな谷川岳ではあるが新潟の山でもある、とダンナが主張した。そうか、新潟の山だったか、谷川岳。
でも、全部登山道は群馬じゃないの。
いーや、違う。実は新潟からのルートもあるのである。茂倉岳を経由するルートで、かなり長い。もちろん、そんなルートを利用するつもりはハナから無かった。
永年登山初心者の私としては、楽であれば楽にこしたことはないのである。つまり、一番利用したいルートはロープウェイに乗って天神平に行き、そこから山頂をめざす、最もメジャーなルートだ。
ところが、我々にはロープウェイにさける資金が無い。ってか、もったいない。山地図によれば、ロープウェイを利用しても山頂まで2時間歩く必要がある。ロープウェイを利用しない一番メジャーなコースである西黒尾根は約4時間。2時間の差で2人分で片道2千円以上出すのはどうだろう。
と、いうことで、当初は西黒尾根から登って、巌剛新道から下るプランを考えていた。
ところが、である。ダンナがいろいろ登山した人のページを調べ上げ、とんでもないコースを提案してきた。
西黒尾根から登って、茂倉新道から下る、というのである。
それだと登山口と下山口が違うではないか。どうするの?
答えは、JR利用だ。
まず茂倉新道の登山口まで自動車で行き、徒歩でJR土樽駅に行く。始発上りの電車に乗り一区間で次の駅土合に降りる。そこから徒歩で西黒尾根登山口に行き登る。谷川岳、一の倉岳、茂倉岳と歩いて、茂倉新道で下山すれば、駐車場に自動車が待っているという算段だ。うへぇぇぇぇ。
よくよく調べたら、JRの利用料金は一人230円。西黒尾根登山口まで自動車で行ったとしたら、ロープウェイの駐車場に止めることになって、1台500円。おお、こんなところで40円の節約。さらに、きちんと新潟県がわの登山道を使っているので新潟の山と主張するのに無理が無い。標高差のわりに距離が長いから急な坂は西黒尾根よりは少ないだろう。うーむ、なんか魅力的なプランに思えてきたぞ。
お盆休みが雨だったから、長い歩きの必要な山に登りそこなっているし。きっと今年の夏山はこれで最後だし。
無謀なんじゃないか、と頭でわかっていたが、決行することにしてしまった。
          (写真数が多いので、サイズを小さくしています。花の写真は、ダンナのサイトからご覧いただけます。)
土樽駅を始発の上り電車が発車するのは6時30分である。
それに間に合わせるためには、仕度徒歩の時間を入れて6時前には茂倉岳の駐車場に到着しなくてはならない。
と、いうことで、ナビにとりあえず土樽駅を入れたら、駅舎のない高速道路下で案内を終えられてしまった。ここから徒歩なら階段で直接駅に行けるらしいが。
仕方が無いのでさらに直進したら道が二手に分かれていた。
正面にバス停があり、真っ直ぐは橋。右に行くと大きくカーブしている。
茂倉岳の駐車場はどっちだ?
ちょうど橋のほうから登山者らしい人が来たので聞いてみると、橋を渡ってしばらく進めばいいと教えてくれた。
つまり、左写真で赤い矢印が茂倉岳の登山口。青い矢印は土樽の駅舎に向かう道である。
よくよく見ると、道の端々に右写真のような道標がある。
注意していれば迷わない。
しかし、細い道を意外に長く走る必要がある。
5時35分 意外に早く茂倉岳の駐車場に到着。4時少し前に家を出たのでどれだけ速く高速を飛ばしたんだ、ということになる。
駐車場って言っても、ただの緑の空き地といった感じで、トイレも何もない。他に2台の自動車がとまっていた。
仕度をして土樽駅に歩き出す。
高速道路の土樽パーキングの建物やら万太郎山の登山口の入り口やらを通ったり、雪国文学散歩道の清水トンネルという道標を見たりしながら、ゆっくり歩いて25分ほどかけて土樽駅に到着。6時05分。
駅前にキャンプしている人たちがいた。
先に道を訊いた男性も駅舎の中にいて、少し前まで中で寝袋で寝ている人もいた、と話していた。
駐車場にトイレが無かったので、駅のトイレに入ったが、男女兼用が1つきりでペーパーも無い。
キャンプしていた人たちが洗面に来たが、手洗いも1つきりだ。
6時30分 定刻に電車が来る。
土樽は無人駅なので車掌さんから切符を買う。
キャンプなどで土樽の駅舎を利用していた人たちも電車に乗って登山するかと思いきや、我々と一緒に乗り込んだのは4人きり。
2両だけの電車だし、それほど人も乗らないので、無人駅でも取りっぱぐれは無いらしい。
10分足らずで長い長い清水トンネルをぬけて土合駅に。
下りの土合駅のホームはもぐら駅と呼ばれるくらい地下にあるらしいが、上りは地上で楽々駅舎に出られる。
ちなみに土合駅も無人。改札の箱の中に切符を入れる。
無人のわりにやたらデカい土合駅だ。
駅前は広々としたスペースになっていて、ここでもキャンプしている自動車が数台あった。
ここから徒歩で登山口まで行く。駅舎を背にして右がわに進み、踏み切りを越えて歩いて行く。
ところが、早朝のわりにもう暑くて、アスファルトの道がやたら長い。登りだし。
15分ほど歩いて、ハナゲの滝の時に来た「湯吹きの滝」前の土合橋を通り過ぎた。そこから5分ほど登ると、慰霊塔のある公園(谷川岳で亡くなった人の名前が刻まれた碑がある。徒歩でないと見落としてしまいそうな公園だ)が右手にあり、そこからさらに5分でやっとロープウェイの建物が見えた。
ロープウェイはもう運行中だった。だったら土合駅からバスでも出ていればいいのにぃ。
と、いうことで、土合駅を6時43分に出て、ロープウェイに7時過ぎに到着。いや、到着じゃなくて、通り過ぎる。
ロープウェイの建物のオルゴールの音楽を後に、カーブを1つ登ると、左手に谷川岳休憩舎(登山指導センター)がある。湧き水があるので、飲んでみる。
ここが最後のトイレなのでしっかり入って準備をする。
さらに登山届けもここで提出。(ちなみに、土樽、土合の両駅にも登山届けのポストがあった)
ここまで上着を着ていたのだが、アスファルトの道を歩くだけで汗びっしょりだ。樹林帯をしばらく登るというので、上着を脱いでリュックに入れた。
休憩舎から歩いて5分もしない場所に左写真のような道標がある。
これが西黒尾根の登山口で、え?と思うくらい地味だ。
しかも、いきなり右写真のようにガッツリ登るとりつきである。
この入り口で我々より先輩のご夫婦とほぼ同時に出発。我々が先だったので、ちょっと追われる感じでややハイペースになった。
7時22分 登山口より登り始める。
けっこう長い間、ロープウェイ乗り場のオルゴールの音が聞こえたか、そんな情緒豊かな登りではなく、体力勝負の急登だ。
7時37分 鉄塔に到着。
ここに至るまで、すでに汗びっしょりだ。とにかく暑い。急登だったので息も絶え絶えになっている。
水分補給の小休止。
マイペースで登って来られる先輩ご夫婦もすぐに追いついて来た。
このあと、追い越したり追い越されたりする。
鉄塔を過ぎれば少しは勾配が緩くなるかと思いきや、まだまだ急登。しかも泥っぽい粘土質のところに岩が食い込んでいるような地面だ。
倒木があって、それを乗り越えるのに苦労したりして。
この木はいったいどれくらい前から倒れているのやら。足場が切られていたりする。
それにつけても暑すぎる。汗が滝のように流れ出る。
頭にタオルを巻いて汗止めにしたのだが、それでも抑えられずに目に入ってくる。仕方がないのでハンカチを手に持って、拭き拭き歩いた。
8時14分 土合1時間、谷川岳山頂3時間の標識。
このあたりで先輩ご夫婦がちょっと長めの休憩をとられていたので、追い越す。
ようやく少し傾斜が緩くなったかな〜と思ったのもつかの間、すぐにまた岩だらけの急登になったりして。
でも、ちょっとだけ標高が上がったせいか汗はそれほど吹き出なくなった。風も時々吹いてきて、ホッとさせてくれる。
うっそうとした樹林帯の向こう側がやたら明るく見える。
トンネルから出るような感じで飛び出したら岩場だった。
9時ちょうどだ。
正面の山に谷川岳ロープウェイの山頂駅が見える。
まだこっちのほうがちょっと標高は下みたいだ。
樹林帯の粘土質の足場からいきなり岩の足場になるので、ちょっと注意しながら歩く。
10分も歩かないうちに鎖登場。
わっはっはっ、垂直。
足場がしっかりしているので危険は無いという鎖場だが、どう見ても自然の岩を自分で足場を選んで登る必要がある。決して階段状に足場が切ってあるワケではない。意地悪〜。
右写真は登る私をダンナが上から撮影。怖いじゃないの。
鎖場を登りきると、前方に谷川岳が見えた。
と言っても、実は登っている最中はあれが谷川岳であるとわかっていない我々である。
青い矢印がザンゲ岩、赤い矢印がトマの耳、黄色がオキの耳だと思う。
このあたりから高山植物が目立ち始めて、我々の足が止まる。
タムラソウやツリガネニンジン、イワショウブ、トリカブトが綺麗だ。
あれもこれもと撮影する。
そんなことをしていたら、後ろからだいぶ人が追いついてきた。
9時29分 第二の鎖場。
えー、足場がわからない。
鎖が垂れている場所というよりは岩と木の間を利用して登るしか無い。
それにしても岩がでっかい。
よくもまあ、この場所を登ろうと思ったものだ。
鎖場を登りきると、さらに続く尾根上の道を登山者がかなりキツそうな感じで登って行くのが見えた。あれ、我々が登る道だわよねぇ。
9時39分 ラクダの背に到着。
このあたりに来ると、西黒尾根の樹林帯までは登山者の少ないコースと感じたが、スコーンと見渡せる登山道にかなりの数の登山者がいるのが分かる。
で、左写真がスコーンと見渡せる登山道です。本気か、これ、とうんざりさせられる図だ。
右写真はトマの耳とオキの耳を入れてみた図。
9時45分 ガレ沢の頭。巌剛新道との分岐だ。
最初の予定だと登頂後はここから下山のはずだったんだけど。
10時05分 3つ目の鎖場。鎖はほとんど使わずに手で岩をつかんだほうが登りやすい。
鎖をクリアした後も鎖が欲しいような岩場だ。階段状といえばそう思えなくもない岩場なので、どこを選んでも登れるが、やっぱり黄色いマークがついてる場所から登ったほうが安全ではやい。
岩場の上からもあいかわらずこれから歩く道がよぉーく見える。
あんまり近づいた感じがしないトマの耳とオキの耳。
岩場がベンチになるので、けっこうたくさんの人が休憩していた。
我々もさすがにヘタリこむように休憩。
直射日光が暑いのなんのって。
先輩ご夫婦もやっぱり休憩に入った。
暑いですね、と言われたので、実は初めてなんです、と答えたら、ここまで来たら半分と思いがちですが、ここからが本番で、やっと3分の1を登ったと思ったほうがいいですよ、と教えられた。
ええーーー。もうほとんど山頂だと思っていたのに(←こらこら)
とにかく焦らずにゆっくり登ることが肝心です、とアドバイスをいただいた。
右写真はこのあたりから見えるロープウェイ山頂駅と天神尾根。
なおも岩場を黄色いマークを頼りに登って行く。
10時49分 なにやらテロンとした岩場になる。一枚岩のようだ。どうもここが氷河跡と呼ばれた場所らしい。
しかし、足場になる場所が限られていて、そこを必ず登山者が踏むので、そうでなくてもテロンとした岩がツルンツルンになっている。乾いていても滑る状態だ。
なんでここに鎖が無いんだ〜。
5分以上このテロンとした一枚岩と格闘する。
11時06分 下のほうからずっとポチンと言う感じに見えていた、ザンゲ岩にようやく到着。遠目には山のポチンという突起だったが、意外にデカい。しかも草ぼうぼうで近くによると岩に見えない。
ザンゲ岩を過ぎると、岩場は終了し、背の低い草になる。
左手を見ると、天神尾根からの道がよく見えた。
けっこうな傾斜の道をかなりの人数の人が列をなして登って来る。
うわ〜、登りやすいかもしれないけど、あれはあれで大変そうだなぁ。
11時24分 肩の広場の端っこに到着。あちこちに道標がある。
おや、西黒尾根、巌剛新道の道標に初心者下山不向き、中級者以上(健脚向き)とあるぞ。
そうねぇ、あの鎖場や岩場は、ちょっと下山はイヤよね〜。って、最初は巌剛新道から下るつもりだった初心者が語る。
なんて立派な道標だろう。山頂よりもずっと目的地に着いた気分にさせてくれる。
我々が来た西黒尾根からの道だと、ちょっと左に下る感じで肩の小屋がある。たくさんの登山者で賑わっていた。
もちろん、天神尾根と合流した登山道も、いったいここはどこ?といった感じでごった返している。人とぶつからないほうが難しいくらいだ。
11時36分 トマの耳到着。
写真には人は写っていないが、実は満員電車か、というくらい混雑している。小さな子供づれもいて、一息つくどころではないので、早々にオキの耳を目指すことにした。
右写真は、トマの耳の道標からオキの耳への道を撮影。
いったんガクンと下る必要があるが、それほど大変ではない。
11時54分 オキの耳到着。
こちらもトマの耳ほどではないが、たくさんの人がいる。それでも腰を落ち着けて昼食をとれるスペースがあるだけマシである。
我々は当初の予定では一の倉岳の山頂で昼食にするつもりだった。
が、ここまでの登りでとんでもなく体が疲弊しているのに気がついて、大休止を取る必要を感じていた。
オキの耳も混雑していたので、もうちょっと進んで、稜線上でいい場所があったらそこでお昼にすることにした。
12時02分 富士浅間神社奥の院に到着。
ここでお昼を食べようと思ったら、同じ考えの先着がいたので、もうちょっと先に進むことに。
           つづきは、茂倉岳のページへ

実は、谷川岳の登山は、越後駒ケ岳などを登ったあとだったので、かなり気楽に考えていた。登り4時間くらいなら、そんなに気負う必要もない、と考えていたのである。
ところが、いやはや、トマの耳とオキの耳にたどり着くだけでヘロヘロになっていた。
時期も猛暑日の続く真夏であったのがマズかったのかもしれない。樹林帯では蒸し暑く汗だらだら。岩場ではさえぎるもののない直射日光が容赦なく照り付けて体力を奪う。たくさんの人が登っている山といっても決してお手軽な山ではない。
ただし、私は怖がりのわりには岩場が好きなので、ご指導いただいた先輩ご夫婦の言葉の鎖場が終わったら三分の1というのは言いすぎかも、と思った。岩場はけっこう楽しくクリアできましたとさ。でも、気持ちのわりに足にはダメージあったかも。
山頂に着いた段階で、このまま長い茂倉新道を下れるのか?とものすごく不安になった。でも、行かないワケにはいかない。私、下りは苦手なんだけどな。

谷川岳 西黒尾根登山口
  最寄ICは、上信越自動車道水上IC。ただし、我々は新潟から湯沢ICで下りて、土樽駅からJRを利用した。詳しくは本文にて。


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